23.スクール東京時代─(1)
豊彦が、‘‘Wセミナー‘‘を退いた後、時は流れた。その間、「新司法試験」の波が押し寄せてきた。アメリカ合衆国のロー・スクールをモデルとした制度である。受験界が大混乱している中、2009年(平成21年)11月、彼は「スクール東京」の最高名誉顧問に就任する。‘‘Wセミナー‘‘時代、多くの「旧司法試験」の受験生を指導し、合格へと導いてきたが、新制度には、正直、戸惑った。
「スクール東京」で、指導を始めて強く感じたことは、「法科大学院(ロー・スクール)」で学んでいる学生は、今でいう「ゆとり教育」の影響を多かれ少なかれ、受けた若い人たちであった。 このことは、国が定めた制度なので、受験生自身の問題ではない。しかし、指導する側としては、受験生の力にあった対応をしていかなければならない。次のことに注意した。
(1) 若い人には、きつくしてはいけない。しかし、暗記的な勉強を勧めるのではなく、本質的なことをゆっくり教えなければいけない。
(2) 時間がかかっても、思考(理解)する教育に徹する。
旧司法試験は、理論性が中心であったが、新司法試験では、理論性が少なくなり、各科目に訴訟論が加わった。以前、豊彦も「憲法訴訟」は、ほとんどやっていなかった。しかし、制度には従わなくてはいけない。初めは、オタオタすることもあったが、46歳の時、憲法の大家である、芦部信喜先生に毎週2回、憲法を1から学んだ時の気持ちを思い出した。そして、真剣に「試験委員コメント集」を読み込んで、訴訟論を学んだ。 ここで、若い人には、次の論文勉強法を行った。
(1) 長文の問題を早く正確に読むために、ブルーとピンクのマーカーで印をつけて、出題の意図をキャッチ。その後、答案構成をする。
悪戦苦闘した結果、「合格ノート」(憲法/人権・統治)が誕生した。現在、「スクール東京」で人気のある、若手講師、武藤遼先生をはじめ、上位合格者が使っているテキスト本である。
(2)(1)に基づいて、答案を文章化していく。
彼は、文章については、18歳から60年近く、勉強しているので、手慣れたものである。
ただ、若い受験生は、文章が書けない。それを手助けしようとして、「日本文章術検定」講座を誕生させた。「ゼロからでも、合格答案が書けるようになる」。この講座を受講すると思考力と文章力が同時に上達する内容である。これを学べば、試験委員を「うーん・・・」とさせる論文が書けるようになる。
強かな「豊彦流」で、「憲法訴訟」を乗り切るだけでは終わらず、ちゃっかり「新テキスト本」と「新講座」を作り上げてしまったのだ。問題や困難があっても、新しい方法を見つけ出すのは、彼の得意技である。
「法科大学院」制度が開始してから約10年、司法試験業界では、また、変化が起こり始めた。ロー・スクール離れが始まり、「予備試験」を受験する受験生の増加である。その原因は、「ゆとり教育」の一貫ともみられる「新司法試験」制度の問題点が、表に出てしまったことにある。彼は、時代の流れを敏感に察知しながら、批判だけでなく、いつの時代も試験制度に合った指導をすることを心掛けている。単に知識量を増やすだけでなく、深い思考力も養う。そこには、これから日本国、日本国民が多難な世界情勢の中で、自立していく術を、自ら習得して欲しいという願いが込められている。特に、若い受験生には、単なる受験テクニックを超えた、人間そのもの(生きることの意味)への洞察を深めてもらいたいと思っている。
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